産地を次世代につなぐ

「ワインツーリズムやまなし」総合プロデューサー / ローカルスタンダード株式会社 代表 大木貴之

まだ山梨のワインがそれほど注目されていない頃、 仲間とともにつくり手のもとを訪ね、彼らの想いと夢を共有しました。
ぼくができることは「伝える」ことだと思い自分の店で山梨のワインを日々売りはじめました。

「山梨のワインでしょ…」「国産は興味ないから…」最初、山梨のワインは売れませんでした。
それでも「山梨に店を構える意義」を考えて、 ワインづくりをする人たちの想いを、彼らに代わって「伝える人と場」が必要だと信じ、日々売り場に立ち続けました。
なぜならば、ぼくらも山梨のワインに共感してもらい、 そのマーケットをぼくらがつくらなければ「ここに存在する意味がない」と思っていたからです。
まだ山梨にも山梨県産ワインを売る店はほとんどない時代でした。

ただ並べているだけでは、山梨県産のワインを飲む環境は広がらない。
人口の少ない山梨だからこそ、他地域からの人の流れをつくろうと試みました。
仲間とともに山梨のワインの小さな冊子をつくり、メディアの皆さんの力をお借りしようとしました。
また、ワインを楽しむきっかけをつくろうと、つくり手とともに楽しむ「ワインフェス」を企画実施しました。
常に産地でしかできないことを形にしようと心がけてきました。

醸造家の日々の努力と、ぶどうの産地として地域の人々が持つおもてなしの力、 そして応援して盛り上げてくださったワインジャーナリストやメディアの方々。
さらには、山梨の、日本のワインを応援してくださる人々によって 山梨のワイン業界全体に、ワイン産地である地域に活気がみなぎりはじめました。

2008年、地域イベント「ワインツーリズムやまなし」を企画しました。
当時、「こんな何もしない企画でいいのか?」と仲間にまで言われました。
大切にしたかったのは「伝えたいことはなんだろう?」ということでした。
イベントで重要な「わかりやすさ」や「集まった人数の大小」はどちらでもいいことでした。
ただ、ぶどうの産地、ワインの産地ができるまでに、どれだけの人生がこの地域に費やされているのか?
その産地を守り、次世代に伝えていくために、どれだけの人が自らの人生をかけて努力しているのか?
こうしたことを産地で、その地域の人々とコミュニケーションをとり、 自分の五感を通して体感し、想像してほしかったからです。
ただ、「おいしいから」「安いから」「便利だから」「有名だから」… そういった理由でワインを選ぶことは否定はしません。
しかし、それだけでは推し量れない様々な「価値」が産地には存在することを 少しでも知ってもらえるきっかけとなればと思って企画しました。

この企画を考えたときに地域の方々に伝えたことがあります。
「このイベントに、地域の人たちが参加していただくことで、人が動き出して、地域に元気が生まれるきっかけになればいい」
「産地としての新たな楽しみ方を提案していくことで、人の流れがおこり、地域にレストランなどの投資がおきてくるはず」
「全国からこの地域に来てもらい、地域の日常を正しく評価してもらうことで、地域は人々は自身の日常により誇りをもてるはず」
など、当時はみな半信半疑でした。
しかし、今になると地域の人たちの行動力に驚かされ、 ワインを楽しめるレストランや、地域の名物を楽しめる飲食店がいくつもオープンし、 自分たちの地域に誇りを持つ人たちが正しく評価されはじめ、 地域の方々が数多く表舞台に取り上げられるようになってきています。

みなさまの力を借りて、自分たちを見つめ直し、 浮かび上がる地域の問題を、当事者自らが見出だし、解決方法を模索し取り組んでいく。
こうしてよりよい産地ができるように、その基礎をつくって次の世代に託したいと思っています。
そんなきっかけをつくらせてくれる。
それが「ワインツーリズムやまなし」です。

大木貴之(おおき たかゆき)

1971年山梨県生まれ。セツゲツカLtd.代表。 都内某企業にてPR・広告・編集・店舗開発などクライアントに応じた様々なコンテンツを提案する業務を経験の後、地元山梨へ。「地方こそ人材が必要。それには場が大切。まず人の集まる場をつくろう」 と、都内でカフェをはじめとする飲食店のプランナーをしていた妻とともに2000年に「FourHearts Cafe」をオープン。
「ジャンルにとらわれず選りすぐりの食材を提供することで様々な分野の人を集める」ことを提案・実践。イラストレーター、デザイナーをはじめ、国籍、業種、役職関係なく多くの人が 集う場となる。この多彩な才能とともに「地方からの発信」を実践していくこととなる。
 2003年頃より「地方と都市のやらねばならぬことの違い」を痛感。「ここにいる意義」を考え「自らを生き残らせることが地域の独自性を生む」という状況に身を置くことで「地域から発信」の構築に取り組む。まずは地場産業を日常利用するという習慣をつくり出し、地域の人の生活に組み込み、積み重ねることによって地域独自の文化が生まれ育つことを10年間現場に立ち実践。
ワインツーリズムはこの考えを実践化したもの。「ワインツーリズムやまなし」では、総合プロデューサーとして地域イベント「ワインツーリズムやまなし」および活動の概念の提示するとともに、概念に沿った世界観を各種制作物や仕組み、企画として定義している。